どんな人におすすめ
伝わる説明ができるようになりたい人
説明が分かりづらい人の特徴の1つに、話(または文章)が長いというものがあります。受け手の集中力を欠き、聞く気を失せてしまうからです。伝えることが目的なのに、それを自らダメにすることほど勿体無いこともありません。
本書には、話を短くするための実践的、ノウハウが詰まっています。
要約が苦手な人
「結局何が言いたいの?」
そう言われる人は、要約する力が足りないのかもしれません。
要約とは大切なことを残しつつ不要な部分を削っていくことです。この「大切なこと」は、同じ内容でも立場や環境によって変わります。
本書の最終目標は「人を惹きつける言葉を作る技術」を得ることです。この技術の大きな軸は「大切なことを見つけること」であり、その手順が具体的に書かれています。
冒頭のセリフを言われて頭を抱えてる方、読めば世界が変わるかもしれません。
読書の習慣が無いけど内容が気になる人
本書は全200ページのうち、書き方に言及しているものは150ページ程度です。また、1ページに占める文字数は多くて200文字程度(一般的な小説は600文字程度)であり、本を読む習慣がない人でもサクッと読める内容になっています。遅くても30分程度で読み終えれます。
おすすめできない人
「書き方」に関する本を読んだことのある人
本書で紹介する技術は、一般的な書き方に関する本に載っています。目新しいスキルを期待しているのであれば、当てが外れると思います。
補足しておくと、この本の大きな特徴は重要なことを短文で表現されていることです。先述した通り、本を読まない人でも、30分もあれば趣旨を理解できます。
中文~長文の執筆を想定している人
本書の対象者にしているのは、短文(200文字)、または1分間スピーチのような短い時間でコミュニケーションを取る人かと思います。中文(500文字)より長い文章を推敲する人は、また別の技術が必要になります。無用の長物とは言いませんが、優先して取得べきスキルではないように思います。
内容
選ぶことが簡潔さに繋がる
読み手に伝える為には、とにかく読み切ってもらうことです。長い文章は読み飛ばされることがあるので、本当に伝えたいことを見つけた上で、その言葉を相手に伝わるように手を加える必要があります。それが以下のプロセスで見つけることができます。
⒈ターゲットを絞る
まずは誰に伝えるのかを具体的にイメージする(性別や年齢、趣味などを想定する)。そして、そこから人物を取り巻く環境や出来事を仮定して(いわゆるプロファイリングして)、その人物が大切にしそうなキーワードを挙げる。
例えば、初心者向けの料理本のポップを書く場合、万人に受けることを考えずに、マトを絞ります。「30代の働く女性」とします。次に、この女性から人物像をプロファイリングします。
- 2人の子供がいる → バランス
- 共働きで忙しい → 時短、作りおき
- 金銭的に余裕がない → 節約
- 料理は得意でない → 作りおき
- 家族は野菜嫌い → バランス
- 太ってきた → バランス
- 毎日家族の弁当を作っている → 作りおき
次に、列挙した項目から、その女性が大切にしそうなキーワードを導き出します。それが矢印の先にある言葉です。
⒉ターゲットに向ける言葉を書き出す
メッセージ(今回の例で言うと、料理本のポップアップに書く)を書き出す。
- 自由に書いてください。(先で絞り込んだターゲットに合わせる必要はなく、当初の目的である初心者向けの料理本のポップ作りだけ意識してください。)ここでの目的は、多くの切り口とアイデアの素材を集めることです。
- 1つの紙に1メッセージを書くようにしてください。後で、ここで挙げたメッセージをカテゴリに分ける作業があります。この時に便利です。
例えば、最終的に挙げたメッセージが以下として次のプロセスに進みましょう。
- 10分で3品作れる
- 夫でも作れる
- 野菜がたくさん食べられるレシピ
⒊書き出した言葉をカテゴリ分けする
「⒉ターゲットに向ける言葉を書き出す」のメッセージをカテゴリ分けします。この時のカテゴリも自由でいいです。矢印の先の言葉がカテゴリになります。
- 10分で3品作れる → 時短
- 市販のタレを活用 → 簡単
- 野菜がたくさん食べられるレシピ → 栄養バランス
⒋ターゲットに向けるカテゴリを選ぶ
「⒊書き出した言葉をカテゴリ分けする」で書いたカテゴリから1つに絞るようにします。この時、自分の好き嫌いで選ぶのではなく以下の①〜③のポイントを踏まえてください。
①対象の特長や内容がきちんと伝わること
②ターゲット(「⒈ターゲットを絞る」の人物像)の興味をひくこと
③独自性があること
今回の例では、「市販のタレを活用」を選ぶことにします。ターゲットが必要としている「簡単」「時短」の特徴は①と②をクリアしていますし、レシピの独自性を伝えるという意味で③をクリアしています。
選ぶ作業は、判断基準が分からないと苦労します。周囲の人に意見をもらいながら進めましょう。
⒌選んだ言葉を磨く
「⒋ターゲットに向けるカテゴリを選ぶ」で選んだ「市販のタレを活用」というキーワードは、事実を伝えてはいるものの、魅力が足りません。活用という言葉が堅いので身近な言葉に置き換えようということです。
具体的な手法の詳細は後述します。例えば、助詞を抜く、字面を変える、シズル言葉の3つを用いて言葉を磨くと「市販のタレちょいたしで、晩ごはん革命」となります。
磨くことが人を惹きつける
⒈助詞を抜く
助詞は、「て・に・を・は」などの単語と単語との関係を示す品詞です。助詞を抜くとは、1行の中にあるそれらを抜くことです。抜いた箇所は空欄のままにしておくこともあれば、句点に置き換えることもあります。
助詞を抜く効果は、文章に感情が入るように見せられることです。最後に助詞を抜く前後の文章を記載します。
「不思議が大好き。」→「不思議、大好き。」
⒉倒置法を使う
倒置法とは、通常の語順を変えることです。効果は入れ替えた言葉を強調できることです。一例を挙げます。
「この未来を見てくれ。」→「見てくれ。これが未来だ」
体言止め(文末を名詞で終える手法)とも相性がよく、体言止めした言葉を強調することができます。
「インド、行ってきた。」→「行ってきた、インド!」
⒊字面を変える
通常は漢字を使って表現する言葉を、意図的にひらがなやカタカナにすることです。1文の中に含む漢字の割合が多いとお堅い印象になりますし、ひらがな、カタカナの割合が多いと柔らかい印象になります。一例を出します。
・肌が幸せになる潤い。
・肌が幸せになるうるおい。
・肌がシアワセになるうるおい。
上から順にターゲットが若く設定されている印象を受けるかと思います。(1番上から、50代、30代、20代といったように。)
⒋対句を使う
逆の意味をもつ言葉を組み合わせることで、ギャップを作り文の表現を強める方法です。(例えば、「温かい」と「冷たい」など。)一例として、「みんなちがって、みんないい」(詩:私と小鳥と鈴と 著:金子みすゞ)があります。
使い方としては、言いたいことの前に反対の言葉をおくようにします。そうである必要はありませんが、対句を使った表現の多くはこのような構造になっています。
「シズル言葉」という裏技
シズル言葉とは、一言で心にピンと響く言葉のことです。例えば、2010年頃に流行ったパンケーキの「ふわとろ」でしょうか。
この言葉の効果は、左脳に理論を伝えて理屈で納得してもらうより、右脳に響くような感覚的に捉えることができる方がわかりやすいということです。
一例として、プチ旅行、プチ飲みなどの「プチ」。気軽で楽しそうな印象を持たせたい時に効果的です。
本書では他にもシズル言葉を紹介していますが割愛します。なお、駅前の広告やCMなどで使われる修飾語はシズル言葉が多い印象です。
感想
「誰に何を伝えるのかを決める」ということが、本書の中で最も重要なメッセージだと感じます。どんなに本書で紹介した技術を駆使しても、誰に何を伝えるのかが曖昧だと、誰にも見られない、伝わらなくなるものなのだと思います。
余談ですが、本書には付録として女性の扱い方を筆者独自の視点で書かれた「女心入門」がついてきます。現時点では興味はないものの、女性を知るためのアプローチの方法は勉強になる部分もありました。ここでは紹介しませんが、本書に興味があれば読んでみてもいいかもです。